看護師が職場の人間関係やパワハラに悩んだ時は、我慢を続ける前に、起きたことを記録し、院内か院外の窓口に相談します。日本医療労働組合連合会の「2022年 看護職員の労働実態調査」では、パワハラを受けたことが「よくある」「ときどきある」と答えた看護職員が合わせて34.5%でした。一人だけの問題ではありません。職場のパワハラは、労働施策総合推進法で事業主に防止の措置が義務づけられていて、相談したことを理由に不利益な扱いをすることも禁じられています。院内で動かない時は、都道府県労働局の総合労働相談コーナー(無料)に相談できます。
この記事でわかること
- 厳しい指導とパワハラの境目
- 今日からできる記録の残し方と、院内・院外の相談先
- 異動と転職の選び方、次の職場で同じことを避けるための確かめ方
厳しい指導とパワハラの境目はどこ?
厚生労働省は、職場のパワハラを次の3つを全て満たすものとしています。優越的な関係を背景にした言動であること、業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、働く人の就業環境が害されること、の3つです。業務上必要で、相当な範囲で行われる指示や指導は、厳しくてもパワハラには当たりません。
判断の手がかりとして、厚生労働省は代表的な言動を6つの類型に分けています。看護の職場に当てはめると、次のような言動が例になります。
| 類型 | 看護の職場での例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 物を投げつける、書類で叩く |
| 精神的な攻撃 | 「看護師に向いていない」と人格を否定する、患者や他の職員の前で長く叱る |
| 人間関係からの切り離し | 申し送りに一人だけ入れない、質問に答えない |
| 過大な要求 | 教えていない処置を一人で任せ、できないと責める |
| 過小な要求 | 経験があるのに、理由なく雑用だけをさせる |
| 個の侵害 | 休みの日の過ごし方や家族のことをしつこく聞く、病歴を本人の了解なく広める |
ミスを指摘されること自体は指導の範囲です。境目になるのは、言い方が人格に向いているか、その場で必要な範囲を超えているか、繰り返されているか、です。自分で判断がつかなくても、相談して構いません。当たるかどうかは、窓口で状況を話す中で整理できます。
看護の職場で、人間関係がこじれやすいのはなぜ?
個人の性格より、職場の形が影響していることがあります。日本看護協会の「2023年 病院看護実態調査」では、看護管理者が考える新卒看護師の退職理由(5つまでの複数回答)で、「上司・同僚との人間関係」を挙げた病院が27.6%ありました。看護職員全体の退職理由の割合ではありませんが、管理する側も人間関係を辞める理由の一つと見ています。
- 同じメンバーで長く働く:交代勤務で同じチームと長時間過ごし、異動が少ないと、関係が固まったまま続きます
- ミスが許されない緊張:患者の安全に関わるので注意が強くなり、言い方が必要な範囲を超えることがあります
- 人手が足りない:余裕が無くなると、教える時間も、言葉を選ぶ余裕も減ります
職場の形が原因なら、自分が我慢を重ねても状況は変わりにくいと考えておきます。
今日からできることは?
記録を残すことと、相談先を決めることです。どちらも、辞めるかどうかを決める前にできます。
記録には、日時、場所、言われた言葉やされたこと、その場にいた人、その後の体調を書きます。感想ではなく、言葉をそのまま書き写します。スマートフォンのメモでも手帳でも構いません。メールやチャットで届いたものは、消さずに残します。
| 相談先 | 向いている時 |
|---|---|
| 看護部長・副看護部長 | 直属の上司が相手で、部署の外に話を上げたい |
| 院内のハラスメント相談窓口 | 記録を持って、正式に対応を求めたい |
| 総合労働相談コーナー | 院内の窓口が動かない、院内に話しにくい |
| 産業医・心療内科 | 眠れない、食べられない、出勤前に涙が出る |
総合労働相談コーナーは、都道府県労働局と労働基準監督署の中にあり、予約なしで相談できます。厚生労働省の「ハラスメント悩み相談室」や、働く人のメンタルヘルスのポータルサイト「こころの耳」にも、電話やSNSで相談できる窓口があります。体の不調が続いている時は、職場の問題が片付く前でも受診を先にします。
異動と転職は、どう選ぶ?
原因が特定の人に限られるなら、まず異動を考えます。部署が変われば、その人と毎日顔を合わせることは無くなり、同じ病院で積んだ経験も使えます。異動の希望は、記録を添えて看護部に出すと、理由が伝わりやすくなります。
相談しても対応されない、部署を越えて同じことが起きている、という時は、組織の側に原因がある可能性があります。その場合は、転職で職場そのものを変えることも選択肢です。ただ、体調を崩している時に急いで決めると、次の職場を比べる余裕がありません。休職や有休で間を取ってから考える方法もあります。
次の職場で、同じことを避けるには?
面接と見学で、職場が人間関係の問題にどう向き合っているかを確かめます。
- ハラスメントの相談窓口があるか、誰が受けているか
- 中途で入った人が、どのくらい続いているか
- 見学の時、申し送りや声かけがどんな口調で行われているか
面接で聞きにくいことの言い換えは、看護師の面接で使える逆質問にまとめています。
私たち with Nursing の LINE 相談では、今の状況と、次の職場に求める条件の整理をお手伝いしています。パワハラに当たるかどうかの判断や法的な相談は、上の公的な窓口をご利用ください。無理に転職を勧めることはありません。
よくある質問
Q. 厳しく注意されるのは、全部パワハラ?
全部ではありません。業務上必要で、相当な範囲で行われる指導はパワハラに当たりません。人格を否定する言い方や、必要な範囲を超えて繰り返される叱責は、当たる可能性があります。
Q. 証拠が無くても相談していい?
相談して構いません。これからの分を記録していけば足ります。日時、場所、言われた言葉、その場にいた人を書き残します。
Q. 相談したことが職場に知られて、不利になることはある?
職場のパワハラについて相談したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは、労働施策総合推進法で禁じられています。院内で話しにくい時は、院外の総合労働相談コーナーから始められます。
Q. 人間関係を理由に辞めるのは、甘え?
甘えではありません。心身の健康を損なってまで続ける必要はありません。ただ、次の職場で同じことを避けるために、何が原因だったかを記録から整理しておくと、職場の選び方が変わります。
Q. 患者や家族からの暴言も、相談していい?
相談して構いません。上司や院内の窓口に記録を添えて伝え、一人で対応しない体制を求めます。院内で対応されない時は、総合労働相談コーナーにも相談できます。

