特定行為研修は、看護師が医師・歯科医師の作成した手順書により「特定行為」を行うために受ける研修です。対象の行為は38あり、21の区分に分かれています。研修は全員が受ける共通科目(省令で合計250時間)と、選んだ区分ごとの区分別科目で構成されます。特定行為研修の修了者は、厚生労働省の資料で令和7年3月現在11,840人です。費用と期間は、研修機関と受講する区分の数によって変わります。
「特定行為研修」という言葉を耳にする機会が増え、受けるべきか迷っている方もいると思います。受講には費用と時間がかかり、修了しても勤務先の体制によっては活かしきれないことがあります。
私たちは、受講を勧めることも止めることもしません。制度の中身、時間数、費用の確かめ方、キャリアへの影響を順に整理しました。
特定行為研修とは、どんな研修?
学ぶのは、特定行為を手順書により行うために必要な知識と技術です。制度の土台となる省令は平成27年10月1日に施行されました。
特定行為は、診療の補助のうち、手順書により行う場合に高い判断力と専門的な知識・技術が求められる行為です。通常は医師の指示を受けて行う行為を、研修の修了後は、医師があらかじめ作った手順書の範囲内で、患者さんの状態を看護師が確かめたうえで実施できます。
38の行為は21の区分にまとめられていて、必要な区分だけを選んで受講できます。区分と行為の例は次のとおりです。
| 特定行為区分(例) | 含まれる特定行為(例) |
|---|---|
| 栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 脱水症状に対する輸液による補正 |
| 血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | インスリンの投与量の調整 |
| 創傷管理関連 | 褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
| 呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 気管カニューレの交換 |
| 動脈血液ガス分析関連 | 直接動脈穿刺法による採血 |
全ての区分と行為は、厚生労働省の「特定行為区分とは」のページで一覧にされています。自分の職場で多い処置に近い区分から見ていくと、受講する区分の見当がつきます。
研修の内容と時間数は?
研修は、共通科目と区分別科目の2つで構成されます。
共通科目
全ての受講者が学ぶ基礎の科目です。臨床推論、フィジカルアセスメント、疾病・臨床病態概論、医療安全学などを学びます。時間数は、省令で定められた合計250時間です。
区分別科目
選んだ特定行為区分ごとの専門の科目で、講義、演習、実習で構成されます。講義・演習の時間数は、区分によって最少5時間から最多34時間です。実習では、これとは別に必要な症例数を経験します。
受講する区分を増やすほど、区分別科目の時間と実習の症例が積み上がります。最初から区分を広げるより、今の仕事で使う場面がある区分に絞ると、働きながらでも計画を立てやすくなります。
費用と期間は、どう確かめる?
費用と期間は、研修機関、受講する区分の数、働きながら受講するかどうかで変わります。研修機関ごとの募集要項で確かめるのが確実です。
確かめたい項目は次のとおりです。
- 受講料と、区分を追加したときの費用
- 共通科目と区分別科目それぞれの受講期間
- 講義の受け方(通学か、自宅で受けられるか)
- 実習を行う場所(自施設で行えるか)
費用を負担してくれる勤務先もあります。受講の前に、費用の補助、研修中の勤務の扱い、修了後の配置について、勤務先の支援制度を確認してください。国や自治体の支援制度が使えるかどうかも、研修機関か勤務先に尋ねておくと安心です。
受講すると、キャリアにどう影響する?
影響には、看護の幅が広がる、給与や転職で評価される場合がある、という利点と、費用・時間の負担、勤務先で活かせない場合がある、責任の範囲が広がる、という負担の両面があります。
受講で得られること
手順書の範囲内で判断して実施できるため、医師の指示を待たずに対応を進められる場面が増えます。訪問看護や在宅医療のように、医師がその場にいない時間が長い現場では、その違いが表れやすくなります。
修了者に手当を設けている施設もあります。手当の有無や金額は施設によって異なるので、勤務先や応募先で確かめてください。転職では、訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所など、在宅医療の現場で評価される場合があります。診療報酬上の評価は改定のたびに変わるため、勤務先がどの加算を算定しているかも見ておきます。
受講する前に考えておきたい負担
研修には費用がかかり、研修期間中は通常の業務との両立が必要です。
実際に行うには、医師が手順書を作り、施設として体制を整える必要があります。研修を修了しても、勤務先にその体制がなければ活かせない場合があります。
判断して実施できる範囲が広がる分、責任も重くなります。判断に迷ったときに相談できる体制がある施設で働くことが前提になります。
受講を考えるとよいのは、どんな人?
受講を考える価値があるのは、研修で学ぶ行為を使う場面が、今の仕事か次に考えている仕事にある人です。
- 訪問看護や在宅医療など、医師がその場にいない時間が長い現場で働いている人、またはそうした現場への転職を考えている人
- 急性期などで経験を重ね、次のステップを探している人
受講を決める前に、勤務先で次の点を聞いておくと、修了後に活かせるかが見えてきます。
- 手順書を作る医師がいるか、すでに特定行為を実施している看護師がいるか
- 修了後の配置や役割が決まっているか
- 研修中の勤務の扱い(勤務扱いか、休暇を使うか)
- 手当や評価に反映される仕組みがあるか
聞いてみて答えがはっきりしない場合は、受講より先に、勤務先の考え方を確かめる時間を取ってください。
反対に、この記事の整理が当てはまりにくい人もいます。今の勤務先に手順書を作る医師や体制がなく、近いうちに異動や転職の予定もない人は、修了しても実施する機会がない可能性があります。その場合は、受講を先に決めるより、どこで働きたいかを先に整理するほうが順番として自然です。資格の取得そのものを目標にしている人も、手当や評価の有無を勤務先で確かめてから判断してください。
よくある質問
Q. 特定行為は全部でいくつありますか?
38行為で、21の特定行為区分に分かれています。必要な区分だけを選んで受講できます。一覧は厚生労働省の「特定行為区分とは」のページで確かめられます。
Q. 研修の時間数はどのくらいですか?
共通科目は省令で定められた合計250時間です。区分別科目の講義・演習は区分によって最少5時間から最多34時間で、実習では別に必要な症例数を経験します。
Q. 費用と期間の目安は?
研修機関と受講する区分の数、働きながら受講するかどうかで変わるため、一律には言えません。研修機関の募集要項で、受講料と期間、講義の受け方、実習の場所を確かめてください。
Q. 働きながら受講できますか?
受講の形は研修機関によって違います。講義を自宅で受けられるか、実習を自施設で行えるかによって、勤務との両立のしやすさが変わります。勤務先の支援制度とあわせて確かめてください。
Q. 修了すると給料は上がりますか?
修了者に手当を設けている施設もありますが、有無や金額は施設によって異なります。今の勤務先と応募先の両方で、手当と配置の扱いを確かめてから判断してください。
Q. 訪問看護で働くには、特定行為研修が必要ですか?
必要ではありません。受けていなくても訪問看護に入職できます。修了していれば、医師がその場にいない場面で手順書により実施できる行為が増えるため、在宅医療の現場で評価される場合があります。
受講するかどうか、今の職場で活かせるかどうかで迷うときは、私たち with Nursingの LINE 相談もご利用ください。今の働き方や評価、条件を一緒に整理するお手伝いをしています。無理に転職を勧めることはありません。

