製薬会社や治験の分野で看護師資格が活きる仕事は、CRC(治験コーディネーター)、CRA(臨床開発モニター)、MSL(メディカルサイエンスリエゾン)、安全性情報管理の4つです。職種別の年収の公的な統計は見当たりません。物差しになるのは看護師全体の数字で、賃金構造基本統計調査(令和7年)では、きまって支給する現金給与額は365.9千円、年間賞与その他特別給与額は856.4千円で、月額×12+年間賞与で計算すると約525万円です。
「年収が高いらしい」と聞いて、製薬会社が気になっている方もいると思います。ただ、4つの仕事は勤め先も、求められる経験も違います。名前だけで比べると、応募の段階になって条件が合わないと分かることがあります。
私たちは、製薬会社への転職を勧めるために書いていません。仕事の中身、年収の比べ方、応募の条件、気をつけたい点を順に並べ、自分に合うかを判断できるようにまとめました。
製薬会社で看護師資格が活きる仕事は、何が違う?
4つの仕事は、勤め先と患者さんとの距離で分けると違いが見えます。表は、患者さんと直接関わる場面が多い順に並べました。病棟の経験がどこまでそのまま使えるかが、この順で変わるためです。
| 仕事 | 主な勤め先 | 主な仕事 | 患者さんとの関わり | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| CRC | SMO(治験施設支援機関)・医療機関 | 治験参加者への説明・日程調整・記録 | 直接関わる | 書類と調整の仕事が中心 |
| CRA | 製薬会社・CRO(開発業務受託機関) | 医療機関を訪ね、治験の記録を確かめる | ほぼ無い | 医療機関への訪問・出張がある |
| MSL | 製薬会社 | 医師に薬の科学的な情報を伝える | ほぼ無い | 応募の条件が高め |
| 安全性情報管理 | 製薬会社・CRO | 副作用の情報を集めて評価する | 無い | 内勤・英語の文書を読む場面 |
CRCは「製薬会社の仕事」と紹介されることがありますが、勤め先は製薬会社ではなく、SMOや医療機関です。応募先を探すときは、会社の種類まで確かめてください。
CRC(治験コーディネーター)
治験に参加する患者さんに説明をし、来院の日程を整え、検査の結果や体調の変化を記録します。医師・薬剤師・製薬会社の担当者の間に立つ調整役でもあります。患者さんの話を聞き、体調の変化に気づく力は、病棟の経験がそのまま使える部分です。治験の手順は参加者ごとに決まっていて、決められた日に決められた検査を行えたかを、一つずつ記録に残していきます。
CRA(臨床開発モニター)
勤め先は製薬会社やCROで、治験を行っている医療機関を訪ねます。治験が決められた手順(GCP省令)どおりに進んでいるか、記録と元のカルテが合っているかを確かめるのが仕事です。疾患の知識とカルテを読む力は活きますが、患者さんと話す場面はほぼありません。
MSL(メディカルサイエンスリエゾン)
医師や研究者に自社の薬の科学的な情報を伝え、現場の疑問を社内に持ち帰ります。営業とは役割が分けられています。論文を読み込んで説明する力が求められ、薬剤師の資格や博士号を応募の条件に挙げる求人もあります。
安全性情報管理(ファーマコビジランス)
発売後の薬で起きた副作用の報告を集め、重さや薬との関係を評価し、国への報告につなげます。症状の経過を読み解く力が活きます。内勤が中心で、海外の報告や英語の文書を読む場面もあります。
年収はいくらで、病棟と比べてどう見る?
4つの仕事の年収は、会社の規模、外資系か日系か、経験の年数で変わります。職種別の公的な統計が見当たらないため、この記事では金額を載せていません。比べるときは、看護師全体の約525万円(賃金構造基本統計調査・令和7年の算式値)を物差しにして、求人票の中身を分けて見ます。
求人票で分けて見る項目は3つです。
- 固定給:基本給と、毎月必ず付く手当
- 賞与:年に何か月分か、業績で変わるか
- 月ごとに変わる手当:残業代や出張の手当など
病棟から移るときに見落としやすいのが、夜勤手当が無くなる分です。日本看護協会の病院看護実態調査では、二交代制の夜勤手当は1回あたり平均11,368円でした。製薬・治験の仕事は日勤が中心なので、今の夜勤の回数の分だけ月々の収入が変わります。今の給与明細から夜勤手当を除いた額を出し、求人票の固定給と並べると、移ったあとの姿がつかみやすくなります。CRAのように医療機関への訪問がある仕事では、移動の時間が勤務時間に入るか、出張の手当がどう付くかも面接で聞いておくと、入社後の食い違いを減らせます。
看護師から入るには、どんな経験が求められる?
病棟の経験で応募の条件を満たしやすいのはCRCです。CRA・MSL・安全性情報管理は、治験や研究の経験を条件に挙げる求人があり、看護師から直接入るのは難しい場合があります。
CRC:臨床経験が応募の土台になる
CRCの求人には、看護師などの医療資格と臨床経験を応募の条件にしているものがあります。必要な年数は会社ごとに違うので、求人票で確かめてください。入社後に治験の手順やGCP省令を学ぶ研修を受けてから、担当を持つ会社もあります。
CRA:治験の経験を求める会社がある
CRAは、CRCなど治験に関わった経験を応募の条件にする会社があります。CRCで治験の流れを覚えてからCRAに移る道もあり、段階を踏むほうが条件を満たしやすくなります。
英語力:外資系や海外と同時に進める治験で問われる
外資系の製薬会社や、海外と同時に進める治験に関わる場合は、英語の文書を読む力が求められます。日系企業のCRCには、英語を条件にしていない求人もあります。
書類では、担当した診療科、患者さんへの説明の経験、記録の正確さを具体的に書くと、CRCの仕事とのつながりが伝わります。書き方は看護師の職務経歴書の書き方にまとめています。
製薬・治験の仕事で、気をつけたい点は?
気をつけたい点は、臨床の手技から離れること、ケアに関わる時間が減ること、仕事の進み方が病棟と違うことの3つです。
臨床の手技から離れる:採血や処置をしない期間が長くなると、手技の感覚は薄れます。いずれ病院に戻るつもりなら、離れる期間の長さを先に考えておくと迷いが減ります。戻るときは、都道府県ナースセンターが行う再就業の研修も使えます。
ケアに関わる時間が減る:CRCは患者さんと話す場面がありますが、病棟のように日々のケアを担うわけではありません。CRA・MSL・安全性情報管理は、患者さんと会う場面がほぼありません。
仕事の進み方が違う:治験は長い期間をかけて進み、途中で手順の変更や書類の差し替えが入ります。その日のうちに結果が見える病棟とは、手応えの得方が違います。
合うのは、書類や記録を正確に整えることが苦にならず、結果が出るまでの長い仕事を粘り強く追える人です。新しい医学の情報を学び続けることに抵抗が無い人にも向いています。反対に、患者さんのそばでケアをすることにやりがいを感じる人、デスクワーク中心の毎日が合わない人は、移ったあとに違和感が出やすくなります。
この記事の整理が当てはまりにくい人もいます。応募先の会社がすでに決まっていて、条件の提示を受けている人は、ここでの比較より、提示された条件の中身を確かめるほうが先です。家族の事情で勤務地や時間に固定の制約がある人も、職種を比べる前に、通える範囲と勤務時間で求人を絞るほうが早く進みます。
よくある質問
Q. 製薬会社で働く看護師の年収はいくらですか?
職種別の公的な統計が見当たらないため、金額は示せません。物差しになるのは看護師全体の数字で、賃金構造基本統計調査(令和7年)の月額×12+年間賞与の算式値は約525万円です。求人票では、固定給・賞与・月ごとに変わる手当を分けて比べてください。
Q. CRCとCRAの違いは何ですか?
CRCはSMOや医療機関に勤め、治験に参加する患者さんの説明や日程調整を担います。CRAは製薬会社やCROに勤め、医療機関を訪ねて治験の記録が手順どおりかを確かめます。患者さんと直接関わるのはCRCです。
Q. 看護師の経験だけで応募しやすいのはどの仕事ですか?
4つの中ではCRCです。臨床経験を応募の条件にしている求人があります。CRAは治験の経験を条件にする会社があり、CRCを経てから移る道もあります。
Q. 夜勤が無くなると、収入はどのくらい変わりますか?
今の夜勤の回数の分だけ変わります。日本看護協会の病院看護実態調査では、二交代制の夜勤手当は1回あたり平均11,368円です。今の給与明細から夜勤手当を除いた額と、求人票の固定給を並べて比べると分かりやすくなります。
Q. 英語ができないと応募できませんか?
仕事によります。外資系の製薬会社や、海外と同時に進める治験では英語の文書を読む力が求められます。日系企業のCRCには、英語を条件にしていない求人もあります。
Q. 製薬・治験の仕事に移ったあと、病院に戻れますか?
戻れます。ただ、採血や処置から離れた期間が長いほど、手技の感覚を取り戻す時間が要ります。都道府県ナースセンターが行う再就業の研修も使えるので、戻る前に調べておくと安心です。
製薬・治験の仕事が合うかどうかは、今の経験と、これから何を大事にしたいかで変わります。with Nursing のLINE相談では、病棟に残る道も含めて、働き方と収入の面から一緒に整理できます。無理に転職を勧めることはありません。

